――俺の日常は変わった。
 朝、台所から匂う味噌汁の匂い。目玉焼きを焼くフライパンの音。テーブルに並んでいる茶碗。

「ほらー、あなた! 雫! 朝ごはんできたわよー」

 台所から、母さんの声がして、優実が出来たおかずを持ってテーブルに置く。

「いやー、お腹空いたー」

 テレビを見ていた父さんが、お腹をさすりながら朝食の並んだテーブルヘ走る。その後を俺も付いて行き椅子に座った。
 台所から、料理を作り終わった母さんと、その手伝いをしていた優実が出てきて隣に座り……

「いただきまーす!」

 と、声を合わせ朝ごはんを食べ始めた。
 俺にとってはそれが何処かこそばゆい感じがして、それは普通の人にとっては当たり前の日常だと思うけど……
 俺にとっては違う。
 人の作った物を食べるのは久しぶりな事だった。
 両親が死んで以来、ほとんどはコンビニやスーパーで買ってきた弁当で済ませて、自分で作るのは正月の店が開いていない時だけだった。
 ましてや、誰かが俺の為に料理を作ってくれる事なんて……無かった。
 「どうしたの雫、食べないのっ?」
 横に座っている優実が、橋を持ったまま止まっている俺を不思議そうに見ているのに気が付いた。

「ああ……今食べるよ」

 俺は前に合った目玉焼きを箸で切って、食べた。

「おいしい……」

 久しぶりに食べた朝ご飯。
 この味、何となく覚えてる。昔、母さんが作ってくれた味だ。

「やっと、笑ったね!」

「え……?」

 優実にそう言われ、気づいたら……笑っていた。
 「そんなに、母さんのご飯おいしかった?」
 目の前で、クスクス笑いながら、茶化すように俺に言う。
 この人が、俺の母さんだと言うのは信じてはいない。
 部屋に飾ってあった俺の写真が何なのかは解からない。
 けれど、死んだ人間が生き返るなんてありえないのだから。
 ただ……昨日の俺を倒した腕と……

「ああ、おいしいよ」

 このご飯の味は、たしかに母さんの物だった。