いきなりの大音声に、エヴァとシュリが振り返った。

「ど、どうしたんですかっ」

「あ、あれ…」

 アーサーが震える指で指したほうに目を向け、エヴァは首を傾げた。

「…あれ、ってどれです?」

「そこに、立ってる…」

「…誰もいませんよ?」

「え?」

 アーサーは慌てて視線を戻した。

 …あの少女は、いなかった。

「今、確かにそこに…」

「…こわがりすぎて見間違えたんじゃ…」

「そんなことはない!現に気配を感じた……え?」

 エヴァの失礼な指摘に反発しながら、ふとアーサーは言葉を切った。


「…シュリ」

 先程から黙っているシュリに声をかける。

「ああ…」

 シュリがゆっくりと頷くのを見て、アーサーは確信を抱いた。

 自然に笑みが浮かぶ。

「ほらな…」

「はい?」

 エヴァはいきなり態度を変えたアーサーに戸惑いながら聞き返す。


「…やっぱり幽霊なんかいるはずがないんだ!」

「は?」

 まったく訳がわからないエヴァをよそに、アーサーは深く頷いた。

 表情は先程までとは比べものにならないくらい明るい。

「どういうことですか?ねえ、シュリっ」

 アーサーに問い掛けるのをあきらめたエヴァが、シュリに助けを求めた。

 シュリは面倒そうに肩をすくめ、口を開く。

「…魔物だ」

「…魔物?」

 鸚鵡返しにするエヴァ。

「従者が気配を感じたと言ったろう」


 …気配。

 そう。さっきの少女は幽霊などではない。

 あのときは気が動転して考える余裕もなかったが、アーサーは、確かに<魔物の気配>を感じて振り向いたのだ。

 幼いころから修業を積んだ身である。こと魔物の気配に関しては、アーサーは鋭い。

 まず間違いなく、あの少女は魔物だ。