勇者様と従者さま。

(何の気配も感じなかった、だと!?)

 アーサーは咄嗟に振り返り、長剣を抜き放った。

 剣身にぎらりとシュリの光が反射し…

 そこにいたのは、小さな鼠だった。

 怯えたように、きいと鳴いて走り去る。

「……」

 アーサーは無言で剣を戻した。

「や、やっぱり…幽霊なんかいるはずがないんだ」

 平静を取り繕って呟いてみる。

 …エヴァが、とても微妙な表情でこちらを見ていた。


「…従者さま、まさかほんとに…」

 笑っていいのかどうか迷ってます、という顔だ。

 隣のシュリは既に顔面崩壊している。薄情者め。

 アーサーは眉間の皺を深めた。

 それを肯定と見て、エヴァが目を真ん丸にした。

「ええー!どうしてですっ?魔物は平気なのに!」

 悪気のなさそうな問い掛けが心をえぐる。

「魔物は斬れるし気配もあるだろう!」

「剣士に多い傾向だ。斬れないものは怖くて仕方ないとな」

 シュリがいらない解説をしつつまた笑い出した。

「うううるさい!怖くない!」

「無理はしなくていいのだぞ?」

「そうです!誰にだって怖いものくらいありますよ!わたし実はゴキブリが嫌いなんです!」

「だから怖くない!」

 アーサーは仏頂面で押し黙った。

 なんとか励まそうとしているらしいエヴァのフォローはことごとく追い打ちになっている。

 慰めるように背中を叩くシュリは…とりあえずその面白そうな顔をやめろ。

 アーサーは目を逸らした。


 ふと、何かが動く気配を感じて顔をあげる。

 アーサーの視線の先には、

 豪奢なドレスを着た少女が、

 恨めしげに立っていた。


 少女と目が合う。

 無言でこちらを見つめる少女。

 アーサーは硬直した。

 たっぷり一分は少女と見つめあったあと、アーサーは大きく息を吸い込んだ。


「うわあああああああっ!!」