「…どっちでしょう?」

 エヴァが首を傾げた。

 上の階にも、長い廊下があり、ドアがいくつも並んでいる。

「順繰りに調べるしかないな」

 アーサーはすでに何度目かわからないため息。

「大変ですね…そうだ、二手に別れて両側から…」

「いやだ!」


 思わず即答してしまい、アーサーははっとする。

 エヴァとシュリが驚いたようにこちらを見ていた。

 思ったより大きな声を出してしまったかもしれない。アーサーはひとつ咳ばらいをして、

「…あのな。シュリがいなければ細かいところが見えないだろう。それにエヴァ様ひとりで行かせたら何か見落とすかもしれない。いや、きっと見落とす。転んで怪我をするかもしれない。従者として放ってはおけない」

 エヴァは目をぱちぱちさせて頷いた。実は相当失礼なことを言われているのに、気付いているかどうかもあやしい。

 彼女は早口にまくし立てると簡単にごまかせる。

 いらない技術を身につけてしまった自分を悲しく思うが、とにかく今は役に立った。

 そっと息を吐くアーサーを、シュリが哀れむような目で見つめていた。


「じゃあ、とりあえずこっちから行きましょう」

 エヴァが宣言して、手近な扉を開けた。

 部屋の中も贅沢な作りだ。調度品も立派である。

 おかしいところはとくにない。

 続いて、次の部屋。その次の部屋。

 同様な部屋が続いている。

「さっきの音、なんだったんでしょう?何か落ちるような音だと思いましたけど」

 飽きたのか、エヴァが口を開いた。

「さあな…」

「従者さまも考えてください!やっぱりあれが噂のゆ…」

「そんなわけあるか!」

 アーサーはとっさに強く否定。

「そんなものいるはずがない、 ああいないとも」

「そんなことありません!だってほら、シュリがいるじゃないですか!」

「…我は幽霊ではない!」

 シュリが憮然とした表情で口を挟んだ。

「だってシュリのその姿は精神体なんですよね?幽霊も一緒ですよ!」


 突然、


 そんなやりとりを遮るかのように、


 部屋の隅からがたりと音がした。