ある領主の館。エヴァたちはそこに滞在していた。

 騒ぎを起こしていた魔物も倒したし、そろそろ次の街に行こうかと、アーサーが考え出した頃。


「従者さまー!」

 エヴァが部屋に飛び込んできた。

 その瞳はきらきら輝いている。

 …経験上、嫌な予感しかしない。

「従者さま、さっき領主さまがおっしゃってたんですけど、」

 エヴァがそう、切り出した内容は、

 …想像通り、ろくでもないものだった。


「…誰も住まなくなった町?」

 聞きかえすアーサーに、エヴァは、「はい!」と元気よく頷く。

「なんだか、幽霊屋敷?っていうのがあるんですって!そのタタリで誰も住めなくなったんですって!!」

「なんでそんなに楽しそうなんだ、エヴァ様…」

 アーサーはぐったり椅子に座り込む。

「…エヴァ様の専門は魔王!魔物だろうが!幽霊なんてどうでもいいだろう」

「だって!その幽霊ってもしかしたら魔物じゃないですか?きっと魔物ですよ!魔物です!ねえ、シュリ?」

 エヴァは三段活用のように自己完結。

 腰に下げた剣から、シュリのうんざりした声が聞こえてきた。

「…どうしても行きたいらしいぞ」

 シュリも散々この三段活用もどきを聞かされたに違いない。

 アーサーは同情しつつも、エヴァに鋭い視線を飛ばした。

「物見遊山じゃないんだからな」

「…いえ、そんなことは」

 途端にエヴァが視線を泳がせた。

 わかりやすい勇者である。アーサーはしてやったりと笑みを浮かべ、

「…大体有名な幽霊屋敷というなら、最近の話じゃないだろう。魔物が増えたのはこの数ヶ月だぞ」

 手際よくエヴァを追い詰めてゆく。…旅に出てからこんな技術ばかり身についた。

 が、エヴァもおとなしく黙ってはいなかった。

「…困っている人を助けるのがわたしのつとめです!…それとも、従者さまは魔物じゃなかったら困るんですか?」

 エヴァはにこりと笑う。

「…まさか、幽霊がこわいから困っている民を見捨てるなんて…」

「そんなことはない!」

 アーサーが反射的に叫ぶ。

 ―形勢逆転、だった。


「…ばかな奴」

 シュリが小さく呟いた。