「従者さま、わたしと逃げてください」

 アーサーが扉を開けるなり、エヴァはそう言った。


 アーサーは数回瞬きを繰り返し、

「そんな駆け落ちみたいなことができるか!」

「かか駆け落ち!違いますよ、シュリもいるし!」

「おう」

 シュリの声もする。

 休んでいたくせにややこしいところで出てくるやつだ。

「…どうしてあなたはそういきなりなんだ。きちんと説明してくれ」

 アーサーは深いため息をついて、エヴァを中に招き入れた。

 …最近どうもため息が癖になっている。嘆かわしいことだ。


「わたしたちこれから、ああいう魔物倒さないといけないじゃないですか」

 エヴァが切り出した。

 ああいう、とは、ステファンに取り憑いていたような魔物のことだろう。

「そうだな」

「それで、考えたんですけど…討伐隊、いらないと思うんです」

 …彼女がそういうことを言い出すとは意外だった。


「数がいれば倒せるってものでもありませんし、もしも隊の皆さんが取り憑かれたら、ひどいことになります。それは…嫌です」

 エヴァはまっすぐな目でいう。

 夕方の弱々しい様子はもうどこにもない。

 それも、その場の感情ではなくきちんとした理屈だ。

 アーサーはまたも驚かされる。

 初めて魔物を見たときもそうだったが、エヴァは意外に芯が強い。