――昔、その村には医者がいなく、ひとたび病に伏せようものなら森の奥にある湖に皆沈められたんだ。そこは富寿湖。まあ不治湖ともいう。
ある日からそこに鬼が住み着くようになったというんだ。
鬼は現れるたびにこう言うんだと。
「お前らみんな黄泉に送るまで、わしは何度でも帰ってきちゃる…」
初めて逃げおおせたものはそれを村のみんなに伝えて死んでいった。
それまでに、鬼に襲われた村人は皆死んでいった。
皆が一様に、腹や背中に大きな切り傷を負って。
恐れを抱いた村長たちはどうすりゃ良いのか話し合い、過去を紐解くうちに思い出した。
恨み言を残し事切れた迷い童の兵吉のことを。
「こりゃあ兵吉の仕業に違いない」
妹を庇い、自らが犠牲を願い出たがそれを止めた小学校の先生が猟師たちにそりゃあ酷い目にあって殺されたそうだ。