その時、
「美緒」
とあたしの声を呼ぶ、確かな声が目の前にあった。
ドキッ、とさっきとは違う種類の心臓音が鳴る。
あたしは整いすぎたその綺麗な顔を、至近距離で見ることができない。
だって格好良すぎるんだもん。
目を下にそらすと、「こっち見ろよ」と低い声で囁かれたため、
体を一回ビクつかせた後、ゆっくりと上目で王子を見上げた。
近い、近いってーーー‼︎
目の前であたしを見下ろす、その青みがかった真剣な瞳は、あたしの心の中までも見透かしているよう。
だめだよ、こんなのドキドキしちゃうじゃん!
でも、また夏の合宿の時みたいに、あたしのことをからかうだけかもしれないし!
思わず、後ずさりをする。
しかし、後ろはプレハブの建物の壁。
もうこれ以上下がれない。
どどどどどうしよう、と慌てていると……
――ドン!
王子はあたしを逃がさないように、後ろの壁に右手をついた。
ヒィィィ!!
こ、これ、壁ドンってやつじゃないっすか!?
「美緒、今日だけバンド内恋愛、解禁してやる」
は、はいーーーーーー!?
どういうこと!?

