「……おい、もうすぐ出番だぞ。楽屋戻るぞ」
関係者スペースの一番奥。
まだ心が乱れたままのあたしは、他バンドの楽屋になっているプレハブの建物裏で体育座りをしていた。
「王子……」
「あ?」
後ろの建物によってできた影の中にいるあたしは、
まだ日のあたる場所に出ることができなかった。
こんな調子で最高のライブができるのだろうか。
王子は上からあたしを覗き込む。
言葉で上手く表現できないあたしは、王子に歪んだ表情を向けることしかできなかった。
「はぁ。お前、そんなんでステージ出れるのかよ……」
王子はため息を漏らしながら、あたしと同じ影の中に入ってきた。
風に乗って、今演奏中のバンドの音が微かに聞こえてくる。
その風と音は、足元の芝生と、奥の木々をも軽く揺さぶっていた。
「…………」
どうしよう、王子、こんなあたしの姿にあきれてるよね。
じわりと目の奥が再び熱くなる。
しかし、
「ゆーたも言ってたけど、お前相当1人で溜め込むタイプだからな」
と言って、王子はくすりと笑っていた。

