「カナタちゃん!」
あたしが立ち上がって、その方向へ走り出すと、
カナタちゃんも黒髪をひるがえし、階段を走って下って行った。
バタバタ、バタバタ、と2人分の足音が階段に響く。
「待って……カナタちゃん、違うから!」
その声はカナタちゃんに届くことはなく、
どんどん階段を下るその姿をあたしは懸命に追いかけた。
階段を下ると、理科室が並ぶ薄暗い廊下が続く。
第1~第3理科室まであるが、今は誰も使っていないようで、廊下にはあたしたちの足音だけが不気味に響いていた。
あんなに細くて白い足なのに、走るスピードはあたしより全然早い。
「はぁ、はぁ、まって……」
息切れとともにその姿を見失いそうになった時、
カナタちゃんは廊下の奥にある女子トイレに入っていった。
あたしも、激しい動悸に胸を押さえながら、その扉を開けた。
すると、
「裏切り者……」
光を帯びていない瞳で、
あたしを突き刺すように睨む、カナタちゃんの姿があった。

