「ちょ、王子……!?」
ふんわりとしたシトラス系の香りに包まれる。
直射日光で明るく光る、
パーマがかかった茶色い髪が目の前に。
あたしの白シャツに王子の制服のブレザーが被さるように触れてくる。
「すまん。俺、あるオーディションを受けないかって言われてて」
か細く呟く声に合わせて、あたしの肩が震える。
その震えは全身に伝わり、心臓の音も次第に早くなっていく。
あ、ラジオ局で話をされていたアメリカデビュー企画のことだよね。
「え、あ、その……」
知らないふりをした方がいいのだろうか。
でも、王子はオーディションに行こうか迷っているような口ぶりだ。
弱った王子が目の前にいることにもドギマギしている今のあたしは、
良く分からない感情が心の中で渦を巻いていた。
その時である。
――はっ!!
あたしの中に、神が降りたのだ。
「王子、ごめんっ。いったん中断で! よっこらせ……」
あたしは急いで両手で王子の頭を所定の位置に戻し、
白シャツのポケットからメモ帳とペンを取りだした。

