呂律も視界もハッキリスッキリしているのに、思考回路だけがまだ試運転状態で。


「お前なあ! もう、5日も寝てて」


ボフッ、と母に毛布の上から肩を叩かれて、次第に起動し始めた思考回路。


「もう、目開けてくれないんじゃないかって、心配で心配で……」


涙と一緒に、母は言葉も飲み込んだ。


なんてこったい。


あたしは、なんて無駄な時間を過ごしてしまったのか。


こんな固いベッドの上で、なんだって5日間も。


「翠ちゃーん」


ガラガラと医療器材を積んだカートを押して入って来たのは、鈴木っちだった。


「翠さん!」


次いで入って来たのは、笑顔の長谷部先生。


「よっ!」


と手を上げると、体がギクシャクした。


当たり前か。


5日間も眠り続けてりゃ、筋肉も衰えるってもんだ。


「はっ! 何かね、これは! 外してくれ!」


あたしの体はどこもかしこも器材が付けられていて、横ではモニターが忙しなく数字を明々と点滅させていた。


バイタルチェックを始めた鈴木っちの後ろで、


「すみません、電話して来ます」


と言い、母がそそくさと病室を出て行った。


「血圧も心拍も、体温も、異常なし。もう、大丈夫だ」


よく頑張ったね、と長谷部先生がにっこりとほほ笑む。


「様子を見ながら、治療とリハビリを始めて行きましょう」


「うん。先生、すまんね。あたし、5日も寝てたって」


「そうよう! 散々心配せせといて、すまんとは何事ー?」


鈴木っちが笑いながら、ボフボフ毛布を叩く。


その様子をクスクス笑いながら、長谷部先生は見ていた。


「やー、めんぼくねえー」


ゲヘ、と下品に笑うあたしを見て、ふたりは同時に吹き出した。


相変わらずだね、なんて声まで揃えて。