だから、あたしは補欠の話を最後まで聞かずに、急いで明るく遮った。


「負けんなよ! 補欠!」


くだらないこと考えんなよ、補欠。


彼女であるあたしをなめたらいかんよ。


あたしは、南高野球部エースの彼女なんだぞ。


中途半端な気持ちで応援して来たわけじゃない。


だから、今は分かるの。


夏井響也がどんな男で、補欠がどんな性格なのか。


試合には出ない、お前のそばにいるよ、そんな事を平然と言ってしまうんじゃないかと、あたしは猛烈に不安になった。


補欠の瞳が、暗く沈んでいたから。


「あたしが麻酔から醒めた時、一回戦突破してなかったら……分かってんだろうな」


ニヤ、と口角を上げて横目で睨むと、補欠はハッとした顔をして瞳を輝かせた。


うん。


分かってくれれば、いいんだ。


甲子園に、連れてってよ。


こんな彼女で申し訳ないんだけどさ。


連れてって。


その、左手で。


フフ、と補欠が得意げに笑った。


「どうせ、ぶっ殺すとか言うんだろ」


ほっとした。


「よーし。分かってんじゃない! いい? 試合終わったら、この病室であたしを待ってろ」


勝っても負けても、良くやったな、さすが補欠だぜ、って。


あたし、元気に笑うから。


だから、負けてしまっても、あたしはいいんだ。


だから、補欠は、まっすぐに己の選んだ道をひたむきに信じて、投げて来て。


結果なんて、実際はどっちでもいいの。


ただ、後悔だけはしないように、初陣を飾って来て。


あたし、太陽みたいに笑って、待ってるから。