本当はすべて準備を終えた後、レオニードに黙って別れようと思っていた。
 言えばきっと彼は引き止めるだろうし、声を聞くだけで、顔を見るだけで、覚悟が揺らぐ気がしたから。

 立ち上がってからわずかに目を逸らし、みなもは床へ視線を逃がす。

「バルディグに仲間がいるって分かったんだ。だから……もう、ここにいる理由はないだろ?」

 レオニードから小さく息を引く音がする。しかしすぐに「いや」と言葉を返してきた。

「もしかすると他国で毒が作られて、バルディグへ密かに渡しているという可能性も考えられる。今の時点でそう決め付けるのは早過ぎる」

 その可能性には十分気づいている。でも――。

 みなもはゆっくりと首を横に振った。

「俺の仲間がヴェリシアを苦しめていることは確かなんだ。それなのに、苦労して手に入れた情報を貰う訳にはいかない」

「君は俺たちを助けてくれた恩人だ、毒を作った人間じゃない。知る権利は十分にある」

「……権利っていうのは、受け入れないことも含まれるんじゃないの? このままのうのうと過ごして待つだけなんて、俺の気が済まないよ」

 このままでは埒があかない。
 どうにか話の流れを変えようと、みなもは顔を上げ、ワザと声の調子を明るくした。

「ずっと探してきて、ようやく希望が持てたんだ。焦ってるのは分かってるけど、やっぱり一日でも早く仲間に会いたいんだ。だから――」

「そんな今にも泣きそうな顔をしながら、無理して笑わないでくれ」

 レオニードの目が細くなり、自分が痛みに耐えるような表情を浮かべた。

「俺の思い過ごしかもしれないが……君が無理してここから離れたがっているように見える」