(兄ちゃん、か。俺が女だって分かったら、どんな顔をするんだろう)

 小さな背を見送ってみなもが息をつくと、すぐに新たな来客が扉を開けた。

「よお、みなも!」

 中背の、ガッシリした体つきの男が手を上げる。

 たくましい顎で好き放題に不精髭は伸び、袖をまくった腕は剛毛が茂っている。
 適当に縛った赤毛は、所々おくれ毛が飛び出し、一見してだらしない。ただ、丸い琥珀の瞳が艶やかなせいか、汚らしさは感じさせなかった。

 小屋へ入るなり、男は豪快に笑った。

「相変わらず無駄に色気を振りまいてるな。さっき小屋の前ですれ違ったガキも、妙に顔が赤くなっていたしなあ……ガキをたぶらかすなよ」

 みなもは小首を傾げる。

「本気で俺に色気があると思ってるの? お前の目を疑うよ、浪司」

「無自覚かい。そこがまた罪作りだよなー」

 呆れたように笑って浪司は扉を閉める。
 と、その場にあぐらをかいて座り、持ってきた手荷物をみなもに見せてきた。

「そんなことより、商売商売っと。なんか欲しい物はあるか?」

 細っこい木の根や、乾燥した木の実……一見ゴミにしか見えない物でも、みなもから見れば使える物ばかりだ。

 浪司は各地をさすらう冒険者だった。
 この地域で手に入れられない薬草を、たまに訪れて売りさばいている。三年前に偶然この村へやってきて、みなもに薬草を売りつけてきた時からの付き合いだ。

 わざわざ辺境の村へ来て、みなもに売りつけるのは、それを薬草だと見分ける人間が少ないから。浪司からすれば、いいお得意さんなのだろう。

「俺が買わないと、誰も買ってくれないんだろ? あるだけ貰うよ。その分――」

「安くしろって言うんだろ? しっかりしてるよな」

 わざとらしく眉を上げ、浪司は持ってきた薬草を別の袋に詰めこむ。それからみなもに袋ごと手渡した。