みなもは鈍い動きで顔を上げる。
 自分でも顔から血の気が引いていくのを感じる。
 寒気がするのに、胸の奥は叫び出したいほど熱くなっていた。

「……これなら、即座に解毒剤を作れます」

 藥師たちが「おお!」と声を上げ、表情を明るくする。

「一体どんな薬草が必要なのだ? すぐに用意しよう」

 淡々と、しかし込み上げてくる期待を抑えきれず、老藥師が上ずった声で申し出てくる。
 みなもは小さく首を振った。

「その必要はありません。もう私の手元にありますから」

「なんと! みなも殿には助けられてばかりだ。一体どんな物を使うのだ?」

 老藥師の質問に、みなもは再び首を振る。

「すみません……それを教えることはできません」

「どういう事だ? よければ説明してくれんか?」

「これは私の一族――ある藥師の一族だけが扱える物なのです。悪用されぬよう、子々孫々と守られてきた一族の秘密……それを教える訳にはいきません」

 彼らが知りたいと思う気持ちはよく分かる。
 ただ、これだけは人に知られる訳にはいかない。
 譲れない、という思いを込めて、みなもは老藥師を見据える。

 老藥師は眉間に皺を寄せつつ、こちらの視線を受け止める。

「……つまりそれは、我々を信じることはできぬということか」

「失礼ですが、その通りです。お互いにまだ知らないところが多すぎますから」

「そう言われるなら、我々もみなも殿を信じ切ることができぬ。実は貴方がバルディグの密偵で、フェリクス様にとどめを刺そうとする可能性も考えられる」

 相手を疑うということは、自分も疑われるということ。
 頭では分かってはいたが、実際に目の当たりにすると言葉に詰まってしまう。