部屋を出て一階へ向かうと、中央の机で最年長の老藥師を中心に数人が集まっていた。
 みなもが「お話、いいですか?」と声をかけると、彼らは一斉にこちらを見る。
 ここへ初めて来た時以上に、目下に濃いクマを作っており、頬もひどくやつれていた。

「レオニードから話を聞きました。よろしければ矢を見せて頂けませんか? もしかしたら、私の知っている毒かもしれません」

 暗く沈んでいた藥師たちの瞳が、みなもの一声で光が差す。

「なるほど、みなも殿はヴェリシアの人間ではない。我らが知らぬ毒を知っているかもしれない」

 老藥師が腕を組みながらつぶやき、周りの藥師たちに目配せする。と、彼らはおもむろに体の向きを変えて場所を空けてくれた。
 みなもはすぐに机に歩み寄り、上に置かれた矢と向き合う。

 時間が経っているせいで、矢尻についた血は赤黒く乾いている。
 両手で慎重に取ると、みなもは矢尻に鼻を近づけた。
 血の匂いに混じり、まったりとして甘い花の香りのようなもの――レオニードがやられた毒と同じ臭いがする。

(おかしいな。これなら今ある解毒剤で間に合うハズなのに……)

 首を傾げながら、みなもは血がついていない矢尻に指先をつける。
 その指を、小さく出した舌で舐めてみた。

 舌先にほのかな苦味と、ピリピリした痺れが広がる。
 わずかに口を開き、息を吸う。
 口の奥に清涼感のある草の香りと、熟れすぎた果実の甘酸っぱくも粘ついた香りが届く。

 そして、あまりにか細く漂ってきたのは、生臭さを感じさせない血の味。
 とても馴染みがある――今、一番あって欲しくない味だった。