「お帰り、二人とも。……下が騒がしいみたいだけど、何かあったのか?」

 こちらが尋ねると、荷物を先に隅へ置いたレオニードが近づいてきた。
 眉間に深い皺を刻んでおり、口を開かずとも事の重大さを物語っている。

「実は……最前線で指揮を取っていたフェリクス将軍が、毒の矢を受けて城に運ばれて来たんだ」

 レオニードにつられて、みなもも顔をしかめる。

「そんな偉い人がやられたのか……容態は?」

「衰弱しているが、まだ生きていらっしゃる。ただ――」 

 言葉を止めて、レオニードはみなもの目を見つめてきた。

「――城にある解毒剤の効きが悪いんだ。矢の毒をここで調べている最中だが、どうやら今までバルディグが使ってきた毒とは違うらしい。……少しは毒が緩和されているが、このままではお命が危ない」

 他の薬はともかく、毒は『守り葉』の専門分野だ。
 自分なら即死する物でなければ、どんな毒でも解毒剤を作ることができる。
 最悪、ヴェリシアで入手できる薬草などでは作れないとしても、とっておきがある。
 なるべくなら使いたくはないが――。

 みなもは唾を飲み込んで覚悟を決めると、レオニードに向ける眼差しを強くした。

「今、下にその矢があるなら、俺に調べさせて欲しい。解毒剤が作れるかもしれない」

「ああ。俺がかけ合ってみる。一緒に来てくれ」

 互いに頷き合ってから、みなもは浪司に視線を移す。

「浪司、悪いけど壺で煮込んでいる薬草を見てて欲しい」

 小刻みに浪司は頷くと、大股歩きで壺へ寄っていく。
 そのついでのように、みなもの肩をポンと叩いた。

「しっかり番してやるから、早く行ってこい」

「ありがとう。任せたよ」

 みなもは言いながらレオニードに目配せし、移動を促した。