(アンタには利用価値があるから、オレは従ってやってんだよ。そうでなきゃあ、今頃は裏切ってるところだ)

 ここが自宅であっても、どこで誰が聞いているか分からない。
 心の中で悪態をつき、ナウムは机に向かう。

「さて、密偵に指示を出しておかないとな」

 ナウムは引き出しから紙を出すと、羽根ペンを調子よく走らせる。

 イヴァンの言いなりになるのは面白くない。
 しかし、これで欲しかった力も、手に入れたかった女の面影も手に入る。
 『守り葉』を――みなもを自分のものにできると思うだけで、気分が高揚した。

 どう自分の下に組み敷いてやろうか。
 優しい言葉を並べて、ゆっくりと心をほだしていこうか。
 それとも、気の強そうなあの顔を涙で歪ませ、逆らう気が起きないほど滅茶苦茶にしてやろうか。

 頭のどこかで、狂気じみた想いだと己に呆れる。
 だが、胸奥から湧き続けるドス黒く熱いものが、理性をあざ笑っていた。