……言われてみれば、確かにそうかもしれない。
 みなもがニッコリ笑って毒を使う光景が、容易に想像できてしまった。
 レオニードは息をつき、眉間に皺を寄せる。

「つまり、みなもが取り返しのつかない事をしかねない、という事か。分からないでもないが……それがどうして噂を流すことに繋がるんだ?」

「既に相手がいるってだけでも牽制できる上に、解毒剤の材料を持ってきた恩人のお前が相手となれば効果は倍増だ。で、さらに侍女も味方につければ、怖いもんなしってもんよ」

 もっと他にやりようがあるだろう、と言いたいところだ。
 たが、浪司なりに心配してのことだと思うと、レオニードの怒りも弱くなっていく。
 しかしみなもの性格を考えると、男相手に妙な噂が立つことを面白く思わない気がした。

「みなもが噂を聞いたら、気を悪くすると思うが……」

「ああ大丈夫、大丈夫。もう知ってるぜ」

 浪司は人の悪い笑みを浮かべながら、声を落とした。

「レオニードと噂になるなら悪くないな、って嬉しそうに言ってたぞ」

 出会った時は、仇を見るような目で見られたのに――。
 わずかに顔を逸らし、レオニードは口元を押さえる。

「……そうか。それなら良かった」

 少なくとも嫌われてはいない。
 そう思うだけで胸の内が浮かれそうになる。
 と、同時に罪悪感も胸をよぎる。

(弱ったな……邪な思いを持っているのは、俺の方じゃないか)

 レオニードは目を閉じてため息をつく。
 今まで通りでいられるよう、どうにか頭に集まりそうな熱を押さえていった。