「何がおかしいんだ、ボリス?」

「いやー……レオニードも他のみんなと同じかと思って」

 レオニードが顔を前に戻すと、ボリスが悪戯めいた笑みを浮かべていた。

「あんなにきれいな人が献身的に治療してくれるからさ、男でもいいから付き合いたいって言うヤツが多いんだよ」

「そんな邪な目で恩人を見ているのか。……嘆かわしいな」

「でも、レオニードもその口なんだろ? 黒髪の藥師さんを見る目がなんか熱っぽいし」

 努めて冷静な顔を作っていたが、レオニードは心の中でぎょっとなる。

「誤解しないでくれ、彼は命の恩人なんだ。何か困った事があればすぐに動けるよう、気を配っているだけだ」

「ふうん。ま、そういう事にしておこうか」

 おどけたようにボリスは片目を閉じた後、臨時で負傷兵を看護する侍女たちを顎で指す。

「でも気を付けろよ。お前が薬師さんの隣に並ぶだけでも、女性陣が妙に色めき立って騒ぎ出すからな。あの子たちの中じゃあ、もう二人が付き合ってるってことになってると思う」

 思い返してみると、みなもと話しながら侍女たちとすれ違う時、こちらを見る目がやけにキラキラしていたような気がする。

 まさかそんな目で見られていたとは……。

 レオニードが愕然としていると、ボリスに膝をつつかれる。そして彼は指先を左側へ向けた。

 示されるままに目を向けると、何やら部屋の隅で談笑している浪司と侍女たちの姿があった。

「あそこのオジサンも、お前と一緒にここまで来たんだろ? 旅先で何があったか、彼女たちに言いふらして煽っているぞ」

 ……諸悪の根源はお前か。

 恐らく浪司のことだ、侍女たちの反応を見て面白がっているのだろう。
 自分だけならまだしも、みなもまで巻き込むのはいただけない。