「みなもと一緒に居続けながら、ずっと考えていたんだ。どうすれば君に報いることができるのだろうかと……」

 言葉を区切り、レオニードはみなもと正面から見合わす形をとる。
 大きな手を、みなもの両肩へ乗せた。
 その重みに鼓動が大きく跳ねた。

「横で見ていると、いつも君は寂しそうで、生きていること自体が辛そうだった。みなもは大切な――恩人なのに、過去のことに縛られて苦しみながら生きるのかと思うと、いても立ってもいられなかった」

 何も言わないみなもへ、レオニードは申し訳なさそうに目を細めた。

「勝手な申し出かもしれない。だが、これでバルディグにみなもの仲間がいても、いなくても、過去のことに一区切りつけられる。だから……どうか何者にも捕らわれず、君の人生をもっと大切にして欲しい」

 一気にみなもの視界がぼやけ、頬へ一筋の涙を流す。
 慌てて手の甲で涙を拭う。けれど次から次に雫は流れ、何度も、何度も拭う。

「うわ、嫌だな……泣くなんて女々しい」

 仲間たちと離れて、ずっと一人で生きてきた。
 まだどこかで仲間が生きているかもしれない、という儚い望みだけが全てだった。
 失ったものを取り戻すことしか、頭になかった。

 だからレオニードの言葉は、目から鱗だった。
 何者にも縛られず、自分だけの人生を生きてもいいのだと――。

 常にどこか闇色の薄布をかけたように、ほの暗く見えていた景色が、みなもの目へ鮮やかに映る。
 涙はまだ流れていたが、自然と笑みが浮かんでいた。

「ありがとう。ここまで言われたら、もうレオニードから離れられなくなりそうだな。あんまり俺を甘やかすと、ワガママし放題になるぞ」

 冗談めかしてみなもが言うと、虚を突かれたようにレオニードの目が丸くなる。
 真面目な彼にはきわどい内容だったかと、みなもは「冗談だよ」と首を傾げて見せた。

 作業を再開させようと、みなもはレオニードへ背を向ける。
 後ろから、「そうか、冗談なのか」という呟きが聞こえてきた。