黒き藥師と久遠の花【完】

「あと、これは提案なんだが……もしバルディグの毒とみなもの仲間が無関係だと分かった時は、仲間の行方を我らで調べようと思っている。どうだ?」

 一瞬、何を言われたのか頭に入らず、みなもはその場に固まる。
 何度かまばたきした後。震え始めた唇を動かした。

「あの、本当によろしいのですか?」

「自分の褒美は要らないから、みなもの力になって欲しいとレオニードに請われたんだ。余もその提案に異存はない」

 思わずみなもはレオニードへ目を見張る。
 視線が合い、彼はほんのわずかに頷いた。

 驚きが治まらないみなもへ、マクシムは口元を綻ばせる。

「もし仲間と再会できたなら、ヴェリシアへ連れて来るが良い。人数が増えて大所帯になっても構わぬ、住処や土地もこちらで用意しよう。ぜひこの地に腰を落ち着けて欲しい」

 きっと恩に報いたいという思いだけでなく、優秀な藥師を手元に置きたいという狙いも、バルディグから毒の脅威を取り除きたいという思惑もあるだろう。
 自分たちに利用価値があるからこそ、国が動いてくれたのだ。

 そんな狙いがあると分かっていても、嬉しくて泣きそうになった。

「……ありがとうございます、マクシム様」

 みなもが一礼すると、マクシムが「うむ」と淀みのない返事をした。

「さて、と。もう少しゆっくり話したいところだが、長居しては作業の邪魔になるな。今日はこれで執務室に戻らせてもらうぞ。また後日に時間を作るから、話を聞かせてくれ」

 そう言うとマクシムは、手をヒラヒラと振りながら部屋を出て行った。