黒き藥師と久遠の花【完】


「私も薬師のはしくれですから、お力になれて何よりです。……あの、私はみなもと申しますが、貴方のお名前は?」

「すまぬ、名乗るのが遅くなってしまったな。余は――」

 手を放して男が名乗ろうとした時、部屋にレオニードが戻ってきた。
 彼を見るなり、レオニードは慌ててその場に跪いた。

「マクシム陛下、なぜこのような場所に!?」

 仰々しい様子にみなもは思わずたじろぐ。
 そして目前の男が何者なのかという事に気づき、レオニードにならって跪こうとした。
 が、マクシムが「構わぬ」と首を振ったので、みなもは動きを静止する。

 この軽そうな人が王様?
 理解が追いつかず混乱するみなもへ、マクシムが一笑した。

「みなもは余の大切な客人……公の場でなければ、並んで話をするぐらい構わぬだろ。レオニード、お前も立ってくれ」

「……御意」

 レオニードは戸惑いながら立ち上がると、みなもの隣に並んだ。
 実直で堅い反応を見て、マクシムはおどけて肩をすくめる。

「お前の恩人に一目会いたくてな。近くを通りかかったから寄ってみたんだ。想像していたよりも若くて美人だな。もし女性だったら口説いていたところだ」

 ……男のフリをしていて良かったな。王様相手に断るのは面倒そうだし。
 みなもが密かに安堵していると、マクシムは気軽にレオニードの肩を、ぽむっと叩いてきた。

「彼はお前にとっても、他の者にとっても命の恩人だ。失礼のないよう、手厚くもてなしてくれ」

「はい、心得ています」

 マクシムの親しみある態度に対して、レオニードの声は硬いままだ。
 みなもは瞳だけを動かして隣を見やる。調子を崩されてレオニードが困ったような表情を浮かべていた。
 それを見てマクシムが、フッと表情を崩した。