黒き藥師と久遠の花【完】

「バルディグの密偵からの話では、毒の作り手はまだ分かっていないそうだ。君は一刻も早く知りたいと焦っていると思うが……すまない、しばらく情報は待って欲しい」

 どうやらこちらの願いに応えられなくて悪いと思っているらしい。
 それだけ真剣に考えてくれている事が伝わり、みなもは薄く微笑んだ。

「八年間ずっと探し続けて何も分からなかったんだ。教えてもらえるまで、ここで待たせてもらうよ」

 嫌味の一つでも言われると思っていたのか、レオニードの表情がフッと和らいだ。

「ありがとう、情報が掴めたら必ず伝える事を約束する。……もし他に望みがあれば言って欲しい。今度は俺が君の力になりたい」

「うん、思いついたら遠慮なく言わせてもらうよ。……そうだ、待っている間にお城の藥師さんたちのお手伝いをしても良いかな? 俺ができる事なんてたかが知れてると思うけれど――」

 一度目を大きく見開いた後、レオニードは体をこちらへ向けた。

「そう言ってくれると本当に助かる。街の藥師にも手伝ってもらっているが、薬も負傷兵の治療も追いついていないんだ。……みなもには迷惑かけてばかりだな」

 申し訳なさそうに眉根を寄せたレオニードへ、みなもは小首を振った。

「ヴェリシアを苦しめているのは、俺の仲間かもしれないんだ。『久遠の花』も『守り葉』も、自分や仲間の身を守る以外の目的で、力を使って人を傷つけるなと教えられてきたのに……だから俺が手伝うのは、罪滅ぼしみたいなものだよ」

 みなもは静かに睫毛を伏せる
 レオニードから事情を説明された時から、ずっと引っかかっていた事だ。
 住処にしていた村を立つ前は、噂話でもいいから仲間の行方を知りたい気持ちが強かった。

 けれどヴェリシアへ近づくにつれて、後ろめたさが膨れ上がった。
 もしバルディグに仲間がいるなら、ヴェリシアの犠牲があってこその再会になる。
 
 仲間には会いたい。
 でもバルディグにいて欲しくない。