黒き藥師と久遠の花【完】

 瞬く間に話がまとまってしまってから、ふとみなもは思う。

(レオニードと二人っきりか。久しぶりだな)

 ザガットの宿屋で頭を撫でられた事が脳裏によぎる。
 どくん、と鼓動が跳ねた。

(……今思い出すと恥ずかしいな。姉さんと間違えて抱きついた挙句に、慰められるなんて)

 仲間とはぐれる悪夢を見て、目を覚ませば仲間がいない現実を突き付けられ――ずっと一人でそれに耐え続けてきた。
 だから、夢と現実の境目で人の温もりを感じた時、不覚にも女々しい事を考えてしまった。

 もうこの温もりから離れたくない。
 ずっと包み込まれていたい。
 常に寂しさと寒さがつきまとう現実なんかに戻りたくない。

 これが自分の本心。
 なんて弱い人間なんだと呆れてしまう。

 自己嫌悪に襲われながら、みなもは顔色を変えずにレオニードへ視線を合わせた。

「よろしく、レオニード。お世話になるよ」

「あ、ああ……」

 レオニードは食卓の席に座ろうとしながら返事をする。
 一瞬、視線を逸らされたように感じたが、考えすぎかと思って気にしなかった。