黒き藥師と久遠の花【完】

 肉の塩漬けや芋などの野菜類を煮込んだ料理が食卓に並ぶ頃、レオニードが戻ってきた。
 心なしか腑に落ちないような表情をゾーヤに向ける。

「ゾーヤ叔母さん、ボリスのベッドから布団が無くなっていたのですが、ご存知ありませんか?」
 
 ゾーヤはハッとなり、「あっ、ごめんなさい!」と口元に手を当てた。

「あの子、今は城で治療中でしょ? だからこの間、息子の友人がしばらく滞在した時に、布団をこっちへ運んだのよ。今日洗濯したばかりだから、まだ乾いていないわねえ」

「そうでしたか。困ったな……家に一人しか泊まれない」

 唸り出したレオニードへゾーヤは近づくと、彼の胸を軽く小突いた。

「水くさいわねえ。一人はアタシの所に泊めれば良いじゃない。レオニードの恩人だもの、大歓迎だよ」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて――」

 レオニードが頭を下げた直後、

「じゃあワシは是非こっちで泊まりたい」

 と浪司が即座に名乗りを上げる。
 わずかにレオニードがたじろいだ。

「いや……家にあるベッドの方が、ここよりも大きい。だから、叔母さんの家にはみなもが泊まった方が良いと思う」

「別に小さくても構わねぇよ。男ばかり集まるより、きれいなお姉さんがいてくれる方が心は潤うってもんだ」

 きれいと言われて、ゾーヤがまんざらでもない顔をする。そして上機嫌に「分かったわ」と頷いた。