「レオニード、ちょっと中に入って休まないか?」

 馬車を引く馬を操っていたのはレオニードだった。
 いくら地元の人間といっても、まだ傷も癒えていない負傷人。体に負担をかけ過ぎるのは感心できない。
 しかし、レオニードは馬の走りを止めない。

「休むぐらいなら、少しでも先へ進みたい。仲間を早く助けたいんだ」

 焦る気持ちは分かるので、強く引き止められない。
 できれば交代で馬の手綱を握りたいところだが、土地感のないみなもと浪司では、迷走するのは目に見えていた。
 
「ヴェリシアの城に着いて、ばったり倒れて死んじゃった……なんて嫌だからね。俺は」

 一言釘を刺しておいて、みなもは小窓を閉めて座り直す。
 浪司が身を震わせてから、歯を見せて笑った。

「レオニードのヤツ、一日中外にいて、よく凍りつかねぇな。ま、何かあったらワシが温めてやる」

「頼りにしてるよ。獣のほうが体温高そうだし」

 うっかり口が滑り、みなもは一つ咳をして誤魔化す。

「んん? 何か言ったか?」

「独り言だよ、気にしないで。あ、そうだ浪司。目的の珍味を食べに行くなら、どの町で俺たちと別れるの? 道中気をつけてよ」

 向かう場所が同じだったから、一緒に旅をしてきた。しかし、これから先の目的は全く違う。
 それにザガットで襲われたのだ。これから先、何が起きるか分からない。
 全く関係のない浪司を、これ以上付き合わせる訳にはいかなかった。

 お互い、また無事に会えればいいけれど……。
 みなもが内心しんみりしていると、急に浪司が頭を軽く小突いてきた。