◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 街の灯りも届かぬ裏路地へ、闇夜に溶けた男たちが固まっていた。
 一人が声を潜めて口を開く。

「ナウム様。毒針に刺された者ですが、薬を飲んでもまだ動けずに苦しんでいます」

「チッ、厄介な毒を使われたもんだ。塗るほうの解毒剤も使ってやれ。少しは回復も早くなるだろ」

 足手まといになるヤツらに、薬なんてもったいねぇ。
 ナウムは心でぼやいてから、集まった部下たちを見回す。

「おい、この中で黒髪の美人さんの名前を聞いたヤツはいるか?」

「確か……みなもと呼ばれていました」

 そうか。やはり聞き違いじゃなかったのか。
 暗闇に紛れているのをいいことに、ナウムは口元をいびつに緩める。

(『守り葉』みたいじゃなくて、あれが本物か)

 殺したはずのヴェリシアの兵士が生き長らえ、バルディグの毒に対抗できる薬師に接触したと報告を受けた時は驚いた。そこらの田舎薬師が治せるような毒ではなかったからだ。

 しかも新たな報告で分かったことは、その藥師は歳若い黒髪の青年。
 追手として差し向けた部下たちが全員記憶を失っていたと聞いた時、すぐにそれが『守り葉』と繋がった。

 確かめなくては、と思った。
 本当ならば急用でバルディグに戻らなくてはいけなかったが、もし真に『守り葉』であれば、イヴァン王が所望していた人材。これほどの朗報はない。

 そして……みなもは自分がずっと探し続けていた少女だ。