真昼の森を、黒い髪をした二人の姉妹が駆けていく。

 長い髪の姉に手を引かれ、まだ十歳になったばかりの妹は道なき道を進む。
 二人とも小枝が顔に当たり、滑らかな肌に赤い線をいくつも作っていた。

 時折、妹をを見やる姉の顔が苦しげに歪む。
 いつもは優しくてきれいな顔なのに……姉の顔を見るたびに、妹も顔を歪ませた。

 息を吸うだけで、胸が詰まって苦しい。それでも二人は走り続けた。

 が、耐えきれず妹はか細い声を出した。

「いずみ姉さん、もう走れないよ」

 妹の手を引いていた姉のいずみが、足を止めて振り返る。

 聡明さと優しさを湛えた姉の黒い瞳が潤んでいる。
 妹と目が合った途端、いずみは青ざめた顔に涙を伝わせた。

「ごめんね、みなも。辛いかもしれないけど、もう少し我慢してね」

 いずみは笑いかけながら、みなもの頭をなでる。

 短くてクセがある黒髪は、いつになく乱れて整わない。
 姉と似ているから誇らしいと思っていた顔も、十歳のお祝いに新調したばかりの服も、森の泥に塗れている。

 どうして私たちがこんな目に……。

 思わず泣きそうになり、みなもは慌てて目から滲んだ涙をぬぐった。

(父さんも母さんも、村の『守り葉』も、みんな斬られちゃった……白い肌の兵隊たちに)

 さっき見た光景が、みなもの頭へ鮮やかに浮かぶ。