黒き藥師と久遠の花【完】

「エマさん、ちょっと良いですか?」

 奥の扉が開き、中から一人の少女がひょこっと顔を出す。
 猫を連想させてくれる、少し釣り上がった勝気そうな目。腰まで伸びた、クセのない艶やかな銀髪。小柄な背丈の割に、胸の膨らみは大きい。

 愛嬌のある笑顔をエマに見せていたが――。
 ――みなもを見た瞬間、少女から笑みは消える。

 目付きが鋭くなり、少女の薄氷の瞳に敵意が宿る。
 が、すぐに笑みを浮かべて「ゾーヤさん」と小走りに駆け寄ってきた。

「あらあら、クリスタじゃないの。久しぶりだねえ」

 ゾーヤが声を弾ませながら、親しげにクリスタの肩を叩く。
 小さな口に可愛く弧を描き、クリスタはこくりと頷いた。

「お久しぶりです、レオニードさんをお見送りしたあの日以来ですよね。お元気そうで良かった」

 ここでレオニードの名が出てくるとは思わず、みなもはわずかに目を見張る。

 背は小柄だが、体つきや大人びいた雰囲気から察するに、自分と同じような年齢なのだろう。
 少なくともレオニードと面識があるのは確実だが、一体どんな関係なのか気になって仕方ない。