黒き藥師と久遠の花【完】

 ゾーヤは「初々しいねぇ」と呟いて紅茶を一口含むと、みなもへ顔を向けた。

「貴方が女の子だってことは、アタシから言わないから安心しておくれ。……できれば早く娘の格好に戻って、みんなを驚かせる日が来て欲しいんだけどねえ」

「うんうん、僕もそう思う。でも、こうやって秘密にしているのも面白いから、なくなると残念だなあ」

 ……この調子なら秘密をバラされる心配はなさそうだけど、何だか遊ばれてるような気がする。まあ自分で蒔いた種だから自業自得か。

 小さく苦笑してから、みなもは「しばらくお世話になります」と会釈する。
 ポンポン、とゾーヤがこちらの腕を軽く叩いた。

「そんなにかしこまらないで。もう身内同然なんだから、ここもあっちの家も自分の家だと思ってくつろいで欲しいわ」

 身内。
 その言葉が嬉しい半面、胸の奥がチクリと痛む。
 思わず目頭が熱くなって、瞳が潤みそうになった。

 唯一の肉親である姉――いずみと別れて、そろそろ二ヶ月が経とうとしている。
 最後に言葉を交わした時に向けられた姉の笑顔が、鮮やかに脳裏へ浮かんだ。

 まだ会いたいという未練は残っているが、それは叶わないこと。
 だからその分、新しく手に入れた身内を大切にしたかった。

「……ありがとうございます」

 みなもはゾーヤに微笑むと、顔を前に向け直す。
 と、黙ってやり取りを見ていたレオニードと目が合う。

 こちらの思いを察してなのか、眼差しがとても優しくなっている。
 そんな目で見られていたのかと思うと、妙に照れくさかった。