黒き藥師と久遠の花【完】

 見るからに深刻そうなレオニードとは対照的に、ボリスの調子は明るい。
 事態がさっぱり読めず、みなもは首を傾げながらレオニードへ尋ねた。

「レオニード、一体何が書いてあるのか聞いてもいいかな?」

 しばらく低く唸り、長息を吐いてからレオニードはみなもへ視線を移した。

「毎年ヴェリシアでは、春の終わり頃に建国祭を開いているんだ。その時に女神ローレイに扮した女性が主人公にした、大きなパレードが行われるんだが……」

 一旦言葉を止めて、レオニードがこちらをジッと見つめてくる。
 まだ動揺しているらしく、瞳に困惑の色が残っている。

「そのパレードがどうかしたの?」

 みなもが話を促すと、ようやくレオニードが重くなった口を開けた。

「……今年はその女神の役を、君にやってもらいたいそうだ」

「へえーそうなんだ……って、俺なの?!」

 まさかこっちに話が向くとは思わず、みなもは目を丸くする。

 以前レオニードから、マクシム様にだけは真実を伝えたいと相談されたので、他言無用という条件で承諾したことがある。

 王様だからって、特別扱いしないほうが良かったのかな?
 激しく後悔しながら、みなもも頭を抱えた。

「そりゃあ、いつかは男の格好を止めるつもりだけど……まだ心の準備が出来てないのに、いきなり大勢の前で女性に戻るなんて――」

 小屋の中でただ一人、明るい表情のボリスが笑い声を上げた。

「ハハ、安心してよみなもさん。男のフリをしたままで大丈夫だから」

「え……? どういうことですか?」

「男として女神役をやって欲しいんだって。つまり、大勢の前で女装するってことになるんだ」

 理解しきれず、みなもは眉間に皺を寄せて唸り出す。

 男のフリして女装しろ? 何でそんな周りくどいことをするんだ?
 マクシム様のお考えが全然読めない……。