コンコン、と誰かが扉を叩く音がした。
 二人が顔を上げて扉のほうに視線を送ると、

「レオニード、みなもさーん、今お邪魔してもいいかな?」
 
 どこかフワフワとした、少し高い男性の声――ボリスの声だった。

「ああ、大丈夫だ。入ってきてくれ」

 レオニードがそう言った後、一呼吸置いてから扉がゆっくりと開いた。

 ニコニコと笑いながらボリスは小屋の中へ入ってくる。
 以前よりも顔の血色は良く、こけていた頬も今はふっくらとしている。
 みなもよりも背は低く、顔立ちも未だに少年のようだが、これでもレオニードよりも年上だと聞いている。

 元気になって良かったとみなもが考えていると、ボリスは二人を交互に見てきた。

「二人きりの甘ーい時間を過ごしているところ、邪魔してごめん。用事はすぐに終わるから、少しだけ我慢して欲しいな」

 子犬のようなボリスの丸い目に、悪戯めいた色が浮かぶ。
 レオニードの親類ということで、ボリスとゾーヤには二人が恋人同士であることも、自分が女性であることも伝えてある。
 だから顔を合わせる度に、いつも茶化すようなことを言ってくる。

 自分がからかうのは好きだけど、からかわれるのは好きじゃない。
 みなもは微笑んであっさり聞き流す。が、チラリと隣を見やると、レオニードは頬をわずかに赤らめ、眉間に皺を寄せながら目を閉じていた。

 ……本当に嘘のつけない人だ。
 レオニードをからかうのが面白いと思うのは、どうやら自分だけではないらしい。