各々に呟いてから顔を見合わせて苦笑すると、みなもはレオニードの隣に座り直し、作業を再開させる。
 
 浪司の気配が完全に消えると、また小鳥や木々の歌が流れ出す。

 一人で生きていた時は、自分が一人ぼっちなのだと突きつけてくる、寂しい歌だと思っていた。
 けれど隣にレオニードがいると、日々を喜んでいる歌に聞こえてくる。

 みなもは泡吹き草を手放し、レオニードの横顔を見つめる。

(これからずっと一緒に歩いていきたいな。年を取って、お互いが薬師として動けなくなった後も――)

「みなも、どうかしたのか?」

 不意にレオニードがこちらに顔を向ける。
 急な動きに驚いてしまい、みなもの鼓動が大きく跳ねた。顔が間近になると、照れくさくて落ち着かない。
 でも目を逸らすのはもったいなくて、彼の瞳を覗き込む。
 
 澄んだ水色の瞳。
 昔、憎んでいたこの瞳の色が、今は一番好きだ。

 みなもは穏やかに微笑むと、体を傾けて首を伸ばす。
 そして軽く唇を重ね、すぐに離れた。

「そういえば、俺からはまだ言ってなかったね……レオニード、愛してるよ」

 言われるのは恥ずかしいが、自分で言うとさらに恥ずかしさが増す。
 頬が熱くなっていくのを感じていると――。

 ――レオニードの手が、みなもの髪を撫でた。

「俺も愛している……これからもずっと一緒にいさせて欲しい」

 自分なんかにはもったいない、でも一番欲しかった言葉。
 頬を指で掻きながら、みなもは「うん」と小さく頷いた。

 こちらの頬へ、レオニードがそっと手を添えて口付ける。
 羞恥の熱とは違う温かいものが、彼の口を伝ってみなもの胸を満たしていった。



 森の奥からそよ風が吹き、二人を労るように柔らかく撫でてくる。
 冷たい風に混じって、甘い花の香が届いた。

 未だに残っていた冬の気配が、ようやく溶けて消えていくのを感じた。