「俺のことは置いておいて……浪司、バルディグの様子はどうだった?」

 話を切り替えると、浪司は腕を組んで唸った。

「もう毒は使われていないが、まだ毒があるフリをして、近隣の国へバルディグに有利な条件で停戦を持ちかけている。したたかなもんだが、これでヴェリシアとの戦争も終わってくれるだろうな」

 ヴェリシアはレオニードの祖国、バルディグはいずみが生き続ける地。
 どちらも争わずに平穏でいられるなら、これほど嬉しいことはない。

 ホッとみなもが胸をなで下ろしていると、浪司が言葉を続けた。

「遠目で見ただけだから断言はできんが、いずみは元気そうだったぞ。元々イヴァン王の寵愛を受けていたし、民衆の人気もある。それに利発さは変わっていないからな。薬や毒の知識を失っても、立派にバルディグの王妃としてやっていけると思うぞ」

「そうか……良かった。離れ離れになってから、姉さんもずっと苦しんできたんだ。これからは幸せになって欲しいな」

 もう自分にできるのは、いずみの幸せを祈ることだけ。
 今も記憶を奪った日のことを思い出すと、胸は痛くなるけれど。

 少し寂しくなってしまい、みなもの視線が下を向く。
 しかし視界の端で、浪司が荷袋を閉じているところが見えたので、咄嗟に顔を上げる。

 浪司は「よっこいしょ」と再び荷袋を背負うと、手をヒラヒラと振った。