思わずみなもの小瓶を掴む手に力が入る。
 彼の顔面に叩きつけてしまいたい衝動に駆られたが、グッとこらえて、ナウムに投げ渡した。

「ナウム、それを今すぐ飲み干せ」

「ああ、良いぜ。最後くらい、お前の言うことを素直に聞いてやるよ」

 そう言いながら、ナウムは小瓶の蓋を開け、口をつけて中身をあおる。
 ゴクリ、と一回ですべてを飲み込んだ音がした。

 次の瞬間――ナウムは不思議そうに己の体を見渡した。

「……まったく効いてねぇぞ。まさか古すぎて効かなくなった毒でもくれたのか?」

「いいや、かなり即効性のあるものだ。もう効いている」

 みなもの言葉にナウムは首を傾げる。
 が、急に目を見開き、真顔でこちらを凝視してきた。

「まさか、今オレが飲んだのは――」

「そう。毒なんかじゃない。……解毒剤だ」

 レオニードと浪司から、驚きで息を引く気配を感じる。
 ナウムも信じられないと言わんばかりに、瞬きを増やした。

「お、おい、みなも、本当にそれで良いのか?」

 戸惑い気味に浪司から問われ、みなもは小さく頷いた。

「良いんだ……俺の気持ちとしては、何度殺しても殺し足りないくらいだけどね」

「だったら、どうしてオレを殺さない?」

 抑揚のない声でナウムが訪ねてくる。
 いっそ罵声でも浴びたほうが気が楽だ、という声が聞こえる気がした。