「おはようナウム。どうしたの? そんな怖い顔して」

 二人きりの時は敬語を使わず、今まで通りに話せと言われている。
 しかしナウムからの返事はなく、その場に立ち尽くして睨みつけてきた。

 しばらくして大きな舌打ちをすると、ナウムは「コイツにできる訳がないか」と呟き、みなもとの間を詰めてきた。

「……今、城内が大変なことになっているらしい」

「大変なこと?」

「オレもついさっき、城から駆け込んできた部下から聞いたばかりで、詳しい状況までは分からねぇ。ただ、城内の人間が次々に倒れて、街のほうにも被害が出始めているようだ」

 乏しい表情を演じたまま、みなもは小さく息を引き、驚いてみせる。
 しかし頭の中は、冷静かつ俊敏に働き出す。

 これはきっと浪司の仕業だ。
 少しやりすぎの感もあるが、目的を果たして生き延びるには必要だと判断したのだろう。

 巻き添えを食らった市民や、城で働く人々のことを思うと気が重たくなる。だが、恐らく人が死ぬような代物は使っていないだろう。
 それなら腹をくくって、一刻も早く事を終わらせたほうが良いように思えた。
 
 みなもはナウムの目を真っ直ぐに見据える。

「もし毒が使われていても、俺ならどんな毒でも耐性がある。原因を突き止めるために、俺を城へ連れて行って欲しい」

「元からそのつもりだ。今すぐ準備して――ああ、そうだ。可能な限り、耐毒の薬を用意しろ。多少の耐性はあるが、念のためオレの部下たちに飲ませたい」

 手短にみなもが「分かった」と返事をすると、ナウムは踵を返して足早に部屋を出て行く。

 ナウムの足音が遠ざかるのを確かめてから、みなもは着替え途中のドレスを脱ぎ捨て、着慣れた男物の服を身にまとう。
 そして素早く荷袋を開けると、中からいくつかの小瓶と、粉末入りの包み紙を取り出した。

(さて、と。じゃあ作るとするか……毒の耐性を消す薬を)

 すうっ、と目を細めてみなもは手元を見つめる。
 久しぶりに扱う毒と薬。自然と集中力が高まり、心の焦りと緊張が薄れていった。