みなもがナウムの屋敷に戻ったのは、山際がほんのり白ばみ始めた頃。
 自室へ戻った後、少しでも眠らなければとベッドへ潜り込んだ。

 目を閉じてすぐ意識は遠のき、眠りの底へと落ちていく。
 が、それはほんの一瞬だけ。あっと言う間に眠りから冷めた。

 うまく寝付けないと心で唸り、みなもはうっすらと目を開ける。

 あまり時間が経っていないだろうと思っていたが、部屋は明るくなっており、窓から眩しい光が入り込んでいた。

(思ったよりも眠れたのか。……あんまり寝た気がしない)

 みなもは気だるい体を起こすと、横目で時計を見やる。
 いつも目覚める時間よりも、針は少し遅い時間を指していた。

 ……やばい。
 まだ半分眠っていた頭が、完全に目覚める。

 朝食を終えたらナウムの執務を手伝うことが日課なのだが、ほんの少し寝過ごしただけで、「お仕置きだ」と言って人の体にイタズラしてくる。
 今日、ナウムから離れることができるのに、最後の最後まで弄ばれるのは嫌だった。

 みなもはベッドから抜け出すと、慌ただしく着替えを始める。
 男物に着替えるなら楽なのだが、ナウムからはドレスを着るよう命じられている。

 まだ意思を取り戻したことを悟られる訳にはいかない。
 不本意ながらも、みなもは衣装棚を開けてドレスを手に取った。

 慣れない手つきで下着を身につけ、ドレスに袖を通す。
 それから背中のボタンをとめにかかっていると――。

 ――バンッ! 荒々しく扉を開ける音がした。

 この屋敷で、人の部屋へノックもせず勝手に入ってくる人間は、一人しかいない。
 みなもは一瞬顔をしかめるが、すぐに平然とした表情で待ち構える。

 コツ、コツ、と鋭い足音を鳴らしながら、ナウムが姿を現した。
 その顔にいつものような軽薄さはなく、苛立ちを隠さない鋭い眼光をこちらに向けていた。