食事を終えて、青年と老人は根城にしている二階の部屋へと戻っていく。
 そして二人は用心深く部屋の中を見渡し、異常がないかを確かめてから中に入って扉を閉めた。

 完全に外から中が見えなくなった途端。
 老人は大きく背伸びをして曲がっていた腰を正すと、顎からベリベリと髭を外した。

「あー疲れた……老人のフリは長時間するもんじゃないな」

 老人から一気に若返り、精悍ながら愛嬌のある顔と無精髭があらわになる。

 何度この光景を目の当たりにしても、見慣れるものではない。
 青年は心の中で感心してから、長息を吐き出した。

「よくここまで変われるものだな、浪司。元の面影が完全に消えている」

「当然だぜ、かなり年期入ってるからなあ。だがレオニード、お前さんも十分に変装できてるぜ」

 そう言うと浪司はにっかり笑いながら、おどけて片目をつむった。

 部屋の壁に掛かっていた鏡を、レオニードは横目でちらりと見る。
 頭で分かっていても、鏡に映った姿が自分なのだという実感が沸かなかった。

 みなもを追ってバルディグの城下街へ向かう途中、ナウムたちに気付かれないよう変装しようと浪司に提案された。
 それは至極もっともだと同意はしたが――まさかここまで髪を短く切り、こんなに赤々とした色に染められるとは思いもしなかった。

 瞳の色も、肌の色も、浪司が用意した薬で変えられてしまった。
 色落としの薬を使えば元に戻るので安心はしている。ただ色がついた分だけ視界は暗く、
たまに距離感が狂って物に当たりそうになっている。