「……いえ、女性ではなくて――」

 青年が答えようとした時、

「待たせて悪かったな、せがれ。少し話に時間がかかっちまった」

 長く立派なヒゲをたくわえた、白髪の老人が青年の向かい側の席へと座る。腰は少し曲がっているが、年の割に大柄な体躯だ。
 隣で男は「何だ、じーさんか」と落胆した声をわざと出し、再び仲間の談笑の輪へと戻っていった。

 老人は早速テーブルに並んでいた酒をあおり、少し冷めたスープや骨付き肉の香草焼を口に入れていく。
 一気に料理の半分を食べてしまった後、一息ついて老人は青年に笑いかけた。

「お前さん、頼んでいた物は全部買えたのか?」

「ああ、俺のほうは問題ない。そっちの話はどうなったんだ?」

「そりゃあもう大変だったぞー。仕事するのにギルドへ登録しなきゃならんかったし、お目当ての仕事をさせてもらえるよう、お世話になる親方さんに何度も頭下げて頼み込んで……はあ、この老体にはこたえるな」

 板へ水を流すように話す老人へ、青年は半ば呆れた目を向ける。
 が、それも束の間。身を乗り出し、老人へ顔を近づけた。

「いつだ? いつから仕事ができるんだ?」

 老人は「あんまりがっつくな」と苦笑すると、ごつい手で骨付き肉を掴んだ。

「明日から行けるぞ。詳しい話は後でしてやるから、今は酒と料理を楽しもうぜ」

 気負うなと言いたいのだろうが、楽しむ気にはなれない。
 青年は口を閉ざし、黙々と目の前の料理を食べ進めていった。