みなもの体が、ぴくりと動く。
 ゆっくりと開かれた目は虚ろで、彼女の意思はどこにもなかった。

「やっと目が覚めたか。起きろよ、みなも」

 緩慢な動きで、言われた通りにみなもが起き上がる。
 次の指示を待っているのか、輝きのない瞳をこちらに向け続けていた。

 みなもの肩を抱き寄せ、ナウムは荒々しく口付ける。
 まだ意思が残っていた時は、こうすれば身構えて体を硬直させていたが、今は力を入れることなく身を委ねてきている。

 あれだけ嫌がっていた人間が、ここまで従順になると気分がいい。
 ただ抵抗されない分だけ、物足りなさを感じてしまう。

(まあ、物足りないぐらいが丁度いいかもな。満たされてさっさと気が済むより、少しは飢えていたほうが、飽きずに長く楽しめそうだ)

 何度か柔らかな髪を撫でた後、みなもを押し倒す。
 密着した肌は柔らかく、互いに冷えていた体が温まっていく。

 ナウムは唇を離して彼女の顔を見る。
 瞳は虚ろなままだが頬は上気し、熱を帯びた吐息を漏らす。手応えはないが、これはこれで艶めかしくてそそられる。

 首筋に顔を埋めようと近づき、ふとみなもの首元に目が留まった。

(……どうして今日に限って、首飾りをしていないんだ?)

 みなもへ暗示をかける際、いつも目についていた首飾り。
 北方の風習で、妻となる女性に首飾りを贈ることは知っている。

 これを初めて見た時、どれだけ鎖を引き千切ってしまいたかったことか。

 しかし首飾りを失ったことで、己の身に何かが起きていると気づかれるのは困る。
 だからみなもに不審がられないために、ずっと我慢をしてきたのだが――。

(あの男への未練を断つために、みなもの目の前で首飾りを砕いてやりたかったな。……残念だが、まあいい)

 心を封じた今、みなもにとって首飾りは、ただのガラクタでしかない。
 彼女の中には、あの男への想いも、繋がりも、あの首飾りに込められた意味など、何も残っていないのだから。

 もし首飾りを見つけたら、みなも自身に壊してもらうのも面白そうだ。

 そんな仄暗い享楽に酔いしれながら、ナウムはみなもの首筋をきつく吸う。
 赤く刻んだ所有の印は、小さな花びらとなって、艶やかに彼女の体を飾っていた。