部屋の中央には獅子の模様が大きく彫られた立派な机が置かれ、一人の男性が肘をついてこちらを見ていた。
 黒の軍服に赤いマントを着けており、彫りの深い凛々しい顔には自信溢れる笑みが浮かんでいる。鋭い目から覗く群青の瞳は、真っ直ぐにみなもを射ていた。

 扉と机の中程までナウムは進むと、そこで仰々しく跪く。
 言われた通りにみなもは隣に並んで跪き、頭を垂れた。

「よく戻ってきたな。……ナウム、お前の隣にいる若者が『守り葉』なのか?」

 男の問いかけに、ナウムは俯いたまま「その通りでございます、イヴァン様」と答えた。

 イヴァン――数年前、仲間を探している最中に噂話で聞いた、バルディグの王位についた新王の名だった。

 新王は気性が荒く、好戦的な人だとも聞いている。
 そんな人が目の前にいるのかと、みなもは緊張で顔が強張った。

 ふと視線を感じて隣を横目で見ると、ナウムが楽しげに目を細めてこちらを見ていた。
 面白がられるのは嫌だと、みなもは顔から一切の感情をなくす。

「堅苦しいのは性に合わん。立ち上がって顔を見せてくれ」

 イヴァンの許しを得て、ナウムはゆっくり顔を上げて立ち上がる。
 少し遅れてみなもも立ち上がり、イヴァンと顔を合わせた。

 イヴァンは「ほう」と好奇心を隠さず、みなもを値踏みするように見る。
 しかし次第に彼の目が大きく見開かれ、みなもの顔を凝視してきた。

(どうしたんだ? 何だか驚かれているように見えるけど)

 みなもが心の中で首を傾げていると、イヴァンはその場を立ち上がり、こちらに近づいてきた。

「やはり似ている。まさか……」

 一言つぶやき、イヴァンは口元に手を当てて思案する。
 と、急に彼は満面の笑みを浮かべた。

「ハッハッハッ……そういうことか。ナウム、俺に取られると思って言わなかったな? 知っていたら、お前の部下にするのを認めなかったぞ」

 話が見えず、みなもは彼らを交互に見る。
 ナウムはなにも言わず、目を弧にして微笑を作るのみ。それがイヴァンに対しての答えだった。