だが、そこにいたのは――みなもとは明らかに違う、大きな体躯の見慣れた男が、食卓の椅子に座っていた。

「浪司!? どうしてここに……」

「すまんなレオニード、勝手に上がらせてもらったぞ」

 砕けた口調の割に、浪司の表情に緊張感が走っている。
 彼がチラリと後ろの台所に目をやったので、レオニードもつられて目を向ける。
 そこには顔を布で隠した男たちが、ぐったりと体を横たわらせていた。

「一体ここで何があったんだ?」

「こいつらはバルディグの密偵だ。お前さんを始末するために来るだろうと思っていたら、案の定来やがった。だからワシが一肌脱いで戦ってやったんだ」

 話が進むにつれ、レオニードの頭から血の気が引く。

「みなもは……みなもはどこに行ったんだ?! まさか密偵に攫われたのか?」

「結果としては同じことだが、みなもは攫われた訳じゃねぇ。自分からバルディグへ向かったんだ」

 言葉数が多い訳ではないのに、浪司の話がうまく頭に入ってこない。
 ここで気が動転してはいけないと、レオニードは必死に思考を働かせた。

 と、現状の不自然さにようやく気がつき、浪司を鋭く睨んだ。

「どうしてみなもがバルディグへ向かったと分かるんだ? それにバルディグの密偵が、どうして俺を始末しに来ると思ったんだ?」

 浪司は腕を組んでひと唸りすると、大きく息をついた。

「教えてもいいが、その前に一つ聞かせてくれ」

「何だ?」


「お前さんは、みなもの人生を――アイツが抱えているものを共に背負う覚悟はあるか?」


 言われた瞬間、レオニードの息が止まる。

 浪司はずっと間近で見ていたのだ。自分たちの関係に気づいてもおかしくはない。
 しかし、みなもの事情までも察しているのか?
 ずっと彼女が人に知られまいとして、隠し続けていたことなのに。

 驚きと警戒で顔が痛いほどに強張る。
 妙な動きはないかと注意深く見つめるレオニードへ、浪司は少し表情を和らげた。