俺の耳には不快な音が聞こえた。

車のブレーキ。

現場には近くの人が集まり始めてる。

人垣で道が塞がれる前に行かなきゃな。


「退いてくれ!」

予想通り。

だけど、苦しい。

意識が飛びそうだ。

ふらふらしてくる。


「クソッ!」

痛い。

思いきり自分の頬を殴った。


「かな子!」

第一声。

自分で言った言葉で目が覚めるとはな。

「かな子!

助けてやるからな。」


携帯はちゃんと確認した。


119を押した。

「モシモシ、救急ですか?それとも」

「救急だ!

なるべく早く、」

「落ち着いてください。」


そうだ、落ち着け。

台本を見れば十分だろ?


このメモ帳に俺が話すセリフを書いただろ。


「もしもし、救急車をお願いします。

女性が車に轢かれました。

出血もしています。」

「住所は、わかりますか?」


「○○町、○丁目の交差点です。

近くに○○という店があります。」

「わかりました。

すぐにむかいます。

患者の容態を、」


「警察は呼ぶな!」

クソッ、何だこいつ?

こいつが…犯人?


「うわぁぁあ!


殺してやる!

警察は呼ぶな!殺す!

どうせ終わりなんだ!」


しまった!携帯が!

「ひゃひゃひゃ、警察は呼ばせな…グェッ

離せ!」


窓ガラスで勘弁してやる。


「黙れ、ばか野郎!」

ガシャァン、

車の窓ガラスって意外に硬いんだな。


さて、落ち着け。

携帯がなくても、救急車は呼んだ。


救急センターの指示を期待していたけど、保険もかけただろ。

思い出せ。

応急処置の方法をここ数日で暗記しただろ。