泣き虫Memories

外が完全に暗くなった。
ベッドのそばの時計は、7時10分を指している。

遠くの廊下から、ばたばたと誰かが走ってくる音がする。
その音がだんだん近づいてきたかと思えば、
『楓ー!迎えにきたよ!』
随分厚着した亜美は、走ったせいか、うっすら汗を浮かべている。
『楓!そんな薄着じゃ凍えるよ?これ貸してあげる。』
亜美は自分の赤いマフラーを、僕の首に巻いてくれた。
『あ、ありがとう…。』
亜美のマフラーは、ふわふわで暖かい。


どくん。

急に頭が真っ白になる。

どくん。

赤いマフラー…?

どくん。


『ねぇ、どうかした?顔色悪いよ?』
その声で、ふと我にかえった。
亜美が心配そうに僕の顔を覗いている。
『う、うん。大丈夫だよ…。』
『そう?じゃあ、行こうか!』
僕の手を強引に引き、病室を出た。
結局、今の不思議な感覚を、深く考えることは無かった。