それは紛れもなく先程まで居た酒場のマスターだった。

しかしそこにあの笑顔はない。

「老獪ダニエル・パッカーか。よい名前を貰ったものだな」

ダニエルは不敵に笑いながらまじまじとこちらを見つめていた。

何かを狙っているのか、もしくは隠しているのか。

「私はダニエルでもなく、私でもない、私は存在せぬもの。

しかし君たちの認識の檻の中ではダニエルとして確かに存在する。しかしそれは本当のダニエル・パッカーなのか?」

ジャックはダニエルの弁舌に顔をしかめる。

確かにこれは心地よさを感じることは難しい。

「君たちを君たち足らしめるモノとはなんだ?この娘をこの娘足らしめるモノは、不敗の兵器を不敗の兵器足らしめる能力の存在に比べたら悲しいほどに薄っぺらい。

そら、君たちにも芽生えてきただろう?疑念、猜疑心、不安の華はかくも美しい」

「――黙りなさい」

いつの間にかジャックの姿はオレの横から消えていて、容赦のない攻撃の為にダニエルに近づいたことでオレはジャックが移動していたことに気づく。

「おっと……急に飛び出したら危ないじゃないか」

ダニエルはよろよろと体勢を整えている。

一見して隙だらけだったがジャックは追撃をしないで様子を伺っている。