男はある違和感に気付いた。

「これは……」

男が手を伸ばすと見えない壁にぶつかった。

押してもビクともしない。

「これが噂に聞く君の不可視の牢獄かな?四天のジャック」

男は僅かに愉悦を含んだ声でそう尋ねた。

「その通りだよ。これが我が"玄武"の絶対防壁だよ」

ジャックはゆっくりと近づきながら、右腕を天にかざす。

すると人差し指にはめられていた指輪が深紅に光輝く。

「そしてこれが罪を燃やす断罪の炎"朱雀"の力」

閃光の様に煌めく炎が銃の形に収束して、ジャックの右手に収まった。

ジャックは銃口を男に向ける。

「この娘ごと私を裁くか?できるのか騎士団の飼い犬め」

男は抱えていたネオンを盾の様にして前につきだした。

ジャックは頭を抱えながらため息をつく。

「ふむ、そいつはできないな。

だが君は二つほど勘違いをしている」

ジャックは構えた銃に集中する。

それに呼応して銃は更に輝きを増していく。

「1つ、私は騎士団の一員だが飼い犬になる気は更々ない。私の中の正義だけが私を動かす。

そしてもう1つ……」

目も眩むような光が銃口付近に集まり、その灼熱が辺りの草花を枯らしていく。

「私の弾丸はたとえきみが何を盾にしようと、どこへ隠れようと君を撃ち抜き燃やし尽くす。『光弾炎尾』」

打ち出された光の弾丸は盾にされたネオンの手前で垂直に急上昇した。

天高く舞い上がると光は停止し、燃え盛る翼と尾が生えた。

炎の鳥は男目掛けて急滑空しネオンを避けて男を撃ち抜いた。

「やったのか?」

オレの言葉にジャックは答えない。

真面目な顔をして燃え盛る炎の柱を見つめていた。

「やはりこのくらいでは倒せませんね」

「え?」

オレはジャックの言葉に炎を見る。

立ち上る火炎の奥では確かに何かが燃えている。

「……さすがは四天のジャック。

しかし、これしきの炎は私を裁くことは難しいね」

炎の中から姿を現してようやくオレはネオンを拐った犯人が分かった。

老いた瞳、白い髭。

しかし先程までとは違う鋭い眼光。

「やはりあなたが闇のブローカー・老獪ダニエル・パッカーだったのですね」