街灯の届かない狭い小道。
鬼気迫る男性の叫び声が、不穏な物音と共に響き渡った。
「た、た……たすけてくれーっ!」
二枚翼の聖十字を背中に付けた騎士団の兵が、叫び声をあげながら逃げている。
忙しなく後ろを振り返る。
誰も住んでいない民家の影が怪しく揺れる。
しかし、そこには何も居ない。
「はぁ、はぁ、はぁ。
み、みんな殺された。まさか本当に存在するなんて……ひえぇっ!」
兵の目の前に突如現れた人物の腰には長い刀がさしてある。
「ひ、お前がそうなんだな?
ブレイザー大量殺人鬼、悠久の騎士団を次々と殺している手配犯"キラー"は」
山吹色の着物から細く長い指が見える。
その指が腰にさした長刀の柄を握る。
「き、斬るつもりか?
我々は正義の使者だ!正義を斬れば貴様は悪……にっ………」
音もなく胴体と首が切り離された。
ごろんと不快な音を立てて、頭部が転がる。
「私の内には正義も悪もない。
お前たちが私を殺人鬼と呼びたいなら呼ぶが良い。
私はただ、この世にはびこるブレイザーを根絶やしにしたいだけなのだから」
キン。と音をたてて刀が鞘に収められた。
振り返ると頭の頂点で結わえた腰ほどもあろう長い髪が揺れた。
「…ラ…ゃーん……キラちゃーん……キラちゃん!!
何でいつもいつも私を置いて行っちゃうのよ!?」
ぜぇぜぇと肩を揺らしながら走ってきた小柄な少女。
見た目は10歳くらいだろうか。
金髪のお下げ髪をふわふわ揺らしながらトテトテと走ってくる。
そのまま走っていると女の子は何かにつまづく。
「いったぁーい。なんなのよもー」
それをよく見ると今まさにキラーによって絶命させられた兵の首のない胴体だった。
「ぎょぇえええーっ!
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いよーーぉ」
キラーは女の子の首根っこを掴むと兵の死体から遠ざけた所で下ろしてやった。
そして低い声で小さく呟く。
「置いていったわけではない。私は元よりお前と一緒に行動をしているわけではないのだから」
月光の下で悲しげな瞳をするキラー。
それを女の子は心配そうな瞳で見上げているのだった。