双子月

「うん、そうだね。
難しいね。
でも君が何を朋香ちゃんに聞いて良いか分からないように、朋香ちゃんも何を君に伝えて良いのか、何を本当に伝えたいのか整理が出来ていないんだ。」


「え…」


さっきの攻撃的な発言の仕方から一転、急に”先生”の顔になったように光弘は思えた。


「本当は時間をかけて心を揉み砕いていくんだ。
でも、君達には時間があるようでない。
人生の分岐点に立っている今、なるべく不安要素は早目に取り除きたい。
もちろん後から巻き返す事だって十分に出来る。
しかし時間が経てば経つ程、病気の原因が根深く心の奥底に沈んでしまって、本人でさえ、救い上げる事が難しくなる。」



林先生は真面目な顔で続ける。



「特に大学生のカップルほど、不安定なモノはないんだ。
高校までに比べて、比較的、自由な時間・行動が許される。
大いに楽しむことが出来、大いに愛を深め合う事も出来るだろう。

しかし、就職活動を間近に控えた時に、しばしばその愛は試練を受ける。
男性はこの先、家庭を持つ事を視野に入れて、しっかりとした就職先を見つけようと奮闘する。
その為には地元を出る人も少なくない。

けれど、家庭を持つ事を視野に入れて考える気持ちは、実際は男性よりも女性の方が強いんだ。
いくら共働きが増えた現代とはいえ、結局は女性が男性の仕事の都合に合わせるしかないケースがまだ多い。
それなりの覚悟がないと、女性は就職先を決めるに当たって、ものすごく精神状態が不安定になりやすい。

自分のやりたい仕事を取るか。
愛する相手を選ぶか。
しかし結婚するという未来の保証もなく、その時点の気持ちだけで相手を選んでしまって良いのか。

分かるかい?
いくら今、愛し合っているからといって、もうほんの数年後にはどうなっているのか分からない。

特に朋香ちゃんのように、掴むモノがないと立っていけないような人間が1番逃げ出したくなる時期がやってくるんだ。

君はその時に支えられるかい?
上手くやっていけるかい?」


林先生はここまで言うと、一息付いた。